五苓散を特徴づけるキーワードは、①尿が出にくい、②咽が渇きやすい、③むくみやすい になり、ポイントとしては「水毒」を改善する漢方薬にとなります。「水」という概念には、飲食物から摂取した水分や組織液・リンパ液などが該当します。そして、「水毒」とは、「水」が偏って存在して流れが悪くなっている状態になります。
漢方医学的には、水分代謝を下記のように考えます。
胃に入った水分は脾で吸収され、脾の「津液」(漢方医学でいう”体液”)となって肺に運ばれます。肺に送られた津液の一部は肺によって体表の組織を滋養したり、汗とかって体外に排泄されます。津液の残りの部分は肺や心の動きによって、血管や三焦(西洋医学のリンパ管に該当する)を経由して体内の臓腑経絡、諸器官・組織に配布されます。
体内や皮膚に送られた津液は汗となった部分を除き、腎の働きによって回収され、ここで膀胱の働きによって再び三焦を経由して肺に送られて再利用される部分と、膀胱から体外に排泄される部分とに仕分けされます。
そして、この水飲代謝の経路の中で膀胱の働きが悪くなり、回収された水が再利用されることも尿から排泄されることもできなくなった結果、水分が貯留して体が浮腫み、尿量減少、尿が出にくい場合です。また、この時、水が三焦を流れないのでひどい咽の渇きがおきます。このような状態を水毒と呼びます。
五苓散を、西洋医学的な面でみると「水チャネル(アクアポリン: AQP)の調節作用」があります。これは、細胞の膜(細胞膜)が細胞の中と外との水の出し入れを調整することで余分な水を排出するという作用になります。
五苓散は、水毒に効く漢方薬ですが、水毒に該当する症状としては、下記のようなものがあります。
・朝起床時の眼瞼浮腫感や手指の握りにくさ
・夕方、足がむくむ
・体の一部分だけにむくみがある。
・心臓や腎臓に病気が無いにも関わらずむくみがある
・喉の渇きを感じ水分を多く摂取するが、小便が少ない。
・尿の量が多かったり少なかったりする。
・水様性の下痢がある。
・さらさらした鼻水が多い。
・汗かき。
・めまいになりやすい。
・頭痛があり、特に雨の日に酷くなる。
*すべての症状がそろわなくても水毒の症状となります。
なお、五苓散は、色々な症状に効果があります。下記のような症状でも効果があります。
➀胃腸風邪みたいな消化器症状を主とする感冒:消化器型感冒の初期で、発熱、嘔吐、水様下痢、腹痛などの症状があるときに使用します。小児で使用する機会が多いです。小児で、風邪の経過中、微熱が続き、咽の渇きがあるが、水を飲むとすぐに吐いてしまうということを繰り返す時に有効です。痛みの少ない下痢を伴う例にも用います。
➁常習頭痛:片頭痛に効果的です。雨の日に頭が痛くなるような症例でも効果があります。
➂二日酔い:二日酔いで、頭痛、嘔気、囗渇があって水を飲むが、すぐに吐いてしまう、尿量は減少し、むくみ感もあるという時に使用すると効果的です。お酒を飲む前に服用すると酔いが回りにくいです。
➄めまい、車酔い:身体動揺感を主としためまいに使用します。多少とも頭痛を伴うことが多い。車酔いで吐きやすい者にも使用する。乗る前から服用しておくとよいです。
➅腎炎、ネフローゼ症候群:比較的初期あるいは急性期に使用されることがあります。
➆その他:熱中症、虚弱児の体質改善。