松栄堂薬局がお届けする健康発信ブログです。皆さんの美容と健康をお助けするお役立ち情報を発信していきます♪

胃の不調と漢方薬 安中散料と六君子湯の紹介

安中散について 

安中散という処方名の由来は、中を安らかにするという意味からつけられたものです。中とは中焦調える意味のある漢方薬になります。漢方医学では、上焦・中焦・下焦と五臓を上下方向に3分割してみることがあります。上焦は心と肺、中焦は肝と脾、そして、下焦は腎と分けます。中焦は、肝や脾に該当するので消化器官の症状に用いられます。 

 安中散は、体力がなく冷えがあるような人の胃痛・胸やけ・嘔吐に用いる漢方薬です。ストレス性の胃部症状、特に胃痛に頻用されます。「検査で胃に炎症や潰瘍などの異常が認められないのに胃のもたれや痛みなどの症状が長く続く病気」である機能性胃腸症によく使われる漢方薬でもあります。原因としてはまだ明らかになっていない点も多い疾患ですが、ストレスの影響も少なくないと言われており、ストレス性の胃痛があるタイプには、安中散が奏効する事例が多いです。他に、胃酸過多に関わらず、胃炎、胃潰瘍などにも頻用されます。抗ストレス潰瘍作用、利胆作用が報告されています。 

また、中焦に対する薬と述べましたが、中焦は胃腸以外にも膵臓や胆嚢も含まれますので、冷えで増悪する慢性膵炎や胆石痛にも用いられることがあります。ただし、温める作用のある漢方薬ですので、急性の炎症性疾患には不適当です。消化器の分野ばかりでなく、婦人科分野でも月経痛に対して使用されます。 

安中散の漢方医学的所見としては、虚証と言われる”疲労感や栄養や元気が足りない状態”で冷えがある方が対象になります。そして、みぞおち部分を柔らかく押すと気持ちが良く感じる方が多く胃腸が弱っている状態を表します。また、胃腸が弱い方は、甘いものを好む傾向にあるので、安中散を使うような人の特徴の一つにもなります。 

そして、寒さや冷えによって発症した胃痛・下腹部痛に広く使える漢方薬であり、特に神経質なタイプに高効能が期待できます。月経痛の場合には、当帰芍薬散で胃腸に負担がある場合に使うことがあります。 

多くの漢方薬メーカーが効能に” 慢性胃炎”を記載していますが、発作的な胃痛・月経痛に対しても即効性が期待できます。 

安中散は、胃薬にも頻用活用されている漢方薬ですが、このように、胃痛だけでなく、胃弱で鎮痛薬が服用できない月経痛の方にも広く用いられ、長期服用ばかりでなく、頓服使用でも手応えが得られる漢方薬であると考えます。 

六君子湯について 

 六君子湯は、体力中等度以下の方で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちが痞(つか)え、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいなどの症状をお持ちの方に使う漢方薬です。病名だと、胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、胃痛、嘔吐などに該当します。 

 そして、消化器症状の改善により、食欲不振が改善し、疲れやすいとか、手足が冷えるなどの全身症状を改善します。 

 六君子湯を漢方医学的な観点でみると気虚を改善する補剤に該当します。気虚とは、胃腸虚弱、食が細いことから起因する病態です。そして、脾胃気虚証(胃腸虚弱による抵抗力の低下が起きている病態)でよくみられます。 

 六君子湯の構成は、「四君子湯」+「二陳湯」となっており、2種類の漢方薬を組み合わせたものになります。 

 四君子湯は、12世紀の中国で書かれた『和剤局方』が原典となり、「身体内部を養う栄気1と、外部を守る衛気*2とが共に虚し、五臓六腑が虚弱で、上部の胃の付近が張って苦しく、全く食欲がなく、腸が鳴り、下痢をし、嘔吐やしゃっくりが出るような人に用いるとよい。常用すると胃腸の機能を整え、食欲を増して、外からの邪気の侵入を防ぐ効能かおる」(意訳)と記載されています。 

そして、二陳湯も『和剤局方』が原典となり、「痰飲*3のため、嘔吐悪心、めまい、心悸亢進、胃部の不快感、発熱などの症状の見られる場合、あるいは生や冷えたものを食べたことにより胃腸の調和が障害されている状態を治療する」(意訳)と記載されています。 

*1 栄気:食べ物から得られた気のことで全身に栄養を供給している 

*2 衛気:体表面にある気で汗腺の開け閉めや、体温調整、そして、免疫機能がある 

*3 痰飲:リンパ液などの体液の流れが悪くなっている状態で、むくみの原因になる。 

つまり、六君子湯は、漢方医学的な言葉で言えば「脾胃虚弱、水滞を治す」となります。分かりやすい言葉で言えば、胃もたれしやすい方が対象になるかと考えます。 

古典的な昔な使われ方を説明しましたが、今の時代はどのような症状や症例で使われているかをみていきます。 

六君子湯の効能・効果は、「体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちかつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐」(タキザワ漢方)となっています。 

もちろん、古典的な使われ方と被る部分が多いですが、最近は、「機能性胃腸症(functional dyspepsia : FD)」という病気で注目を集めています。機能性胃腸症とは、検査で胃に炎症や潰瘍などの異常が認められないのに、胃のもたれや痛みなどの症状が長く続く病気のことで、主な症状は、「食後の胃もたれ感」「少し食べるだけでお腹が一杯になる」「みぞおちの痛み」「胃のあたりが灼けるように感じる」「吐き気、げっぷ」などがあげられます。また、不眠や体のあちこちに不調感があらわれることもあります。原因として色々と考えられていますが、生活習慣の乱れやストレスが、症状を悪化させる要因と考えられています。 

検査結果に現れにくいという西洋医学が苦手とする領域に漢方薬の力が役立っていると思います。 

 そして、六君子湯が健康寿命を延長させるという研究結果もされています。 

安中散と六君子湯の違いについて 

両者とも「胃腸に効く」という観点では共通しますが、下記のように分けると良いかと考えます。 

・腹痛の場合、安中散>六君子湯 

 安中散は、腹痛全般に使用することが出来ます。月経痛にも効果があります。 

・食欲不振の場合、六君子湯>安中散 

 食欲不振や消化機能不全の場合、六君子湯の方が効果的です。