八味地黄丸は、漢方医学では、「腎虚」に用いるとされる漢方薬とされています。腎虚を中心に説明を行います。
最古の中国医学書『黄帝内経』*1では、人体の成長老化を「腎」*2機能の消長と関連づけている。たとえば、女子は7歳で腎気が盛んになって歯が生え代わり、髪が長くなる、14歳で初潮を迎える。男子は8歳で腎気が実すると髪が長くなって歯がかわり、16歳で腎気が盛んになると射精が始まる。以後腎気の衰えによってさまざまな老化の徴候が順次現れます。
「腎」については、「腎は水を主(つかさ)る。五臓六腑の精を受けてこれを蔵す。故に五蔵盛んなれば即ちよく瀉す」とする。すなわち、「腎」には、「精」*3が蓄えられているとされる。これが老化によって不足した状態が「腎虚」と呼ばれるものである。「腎」とは、西洋医学での腎臓とは別物になりますが、「腎は水を主(つかさ)る」(水分代謝の調整)とあり、現在の腎とも無縁ではないです。
具体的には、「腎虚」とは、加齢に伴う身体機能の低下、とくに腎泌尿生殖器系および腰以下の運動機能の低下になります。
腎虚とは、加齢に伴う身体機能の低下ですが、自覚症状をみていきます。第一は、足に力がなくころびやすい、すり足歩行など、腰以下の運動機能低下を示す症候がある点になります。多くの場合、腰痛があります。それ故に中高年以後の腰痛症によく使われます。坐骨神経痛にも効果があります。第二は、泌尿・生殖器症状である。男性では前立腺肥大症状、女性では尿失禁や再発性膀胱炎が多いです。第三は腎機能低下や、日中より夜間に尿量が増える、夕方足がむくむ、朝起床時に口内乾燥している、などになります。さらに、手足の冷えやほてり、下肢の“しびれ”や知覚障害などもみられることもあります。
漢方医学的な観点では腎虚に効くとされていますが、西洋医学的な観点からも下記の事が発表されています。
・尿路不定愁訴に対する改善効果が期待できる。
・腰部脊柱管狭窄症における症状改善効果が期待できる。
・男性不妊症における精子運動率改善効果が期待できる。
・老人性皮膚 痒症に対する改善効果が期待できる。
・糖尿病性神経障害に対する改善効果が期待できる。
・ラットの糸球体濾過量の低下抑制と、糸球体および腎血管の組織障害改善作用が認められた。
「腎虚」に使う漢方薬ですが、下記の症状でも効果があります。
糖尿病、糖尿病性末梢神経障害、インポテンツ、急・慢性膀胱炎、男性不妊、排尿障害、脳血管障害後遺症、高血圧症、低血圧症、肩こり症、五十肩、骨粗鬆症、白内障、眼精疲労、耳鳴、老人性皮膚 痒症、湿疹、更年期障害、などにも応用範囲があります。
「腎虚」に効く漢方薬として高齢者が使う機会が多い漢方薬で腰痛や頻尿が多いですが、適応範囲は広いです。漢方医学本来の腎虚症状に使うことが出来ます。そのため、老若男女関係なく腎虚症状に対して使用を検討してみることが出来ます。年齢が考えた場合は、八味地黄丸と構成生薬が似ている六味丸も使用の検討に入ってきます。
なお、注意点として胃腸が弱い方が服用した場合、食欲低下、下痢などの胃腸障害を起こす可能性があるので注意が必要です。
*1: 黄帝内経:2,000年以上前に中国で書かれた現存する中国最古の医学書
*2:腎:漢方医学の考えに五臓というものがあり、肝・心・脾・肺・腎があります。それぞれにそれぞれの機能があり、相互依存の関係にあります。腎には、「成長、発育、生殖能の制御」、「骨・歯の形成、維持」、「水分代謝の調整」、「呼吸機能の維持」、「思考力、判断力、集中力の維持」の機能があります。
*3:精:複数の意味があるが、ここで登場する「精」は、発育・成熟および生殖という基本的な生命エネルギーに該当します。