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がん治療における漢方薬の役割

 がん治療の漢方薬として十全大補湯と補中益気湯が有名ですが、その効果・効能と使い分けについてみていきます。 

現在、日本の「がんの3大治療法」として(1)外科療法、(2)放射線療法、(3)化学療法(抗がん剤)があります。副作用が問題となりますが、十全大補湯と補中益気湯は副作用に対して大活躍をします。 

  • 外科療法とは、手術の事になり実際に患部を切開して腫瘍細胞を取り出すことになります。手術となると身体に負担がかかるため高齢者や末期癌や他の病気を患っていて体力が無い方の場合、外科療法を受けることが出来ない場合があります。 
  • 放射線療とは、放射線を病変部に照射することで、がん細胞の増殖を妨げていきます。3大治療法の中で一番副作用が少ないとされていますが、疲労感やだるさ、食欲不振、貧血、易感染(感染しやすい状態)などの副作用が出る恐れがあります。 
  • 化学療法(抗がん剤)とは、化学物質によってがん細胞の分裂を抑え、がん細胞を破壊する治療法です。がんは次第に転移し全身に広がっていく全身病です。広がってしまったがんは「局所療法」でしかない外科療法、放射線療法では対処できません。そこで「全身療法」である化学療法が非常に有効な手段となります。ただし、吐き気(悪心)・嘔吐、口内炎、下痢、便秘、全身倦怠感、発熱、アレルギー反応、脱毛、色素沈着、爪の変形、浮腫(むくみ)、血管炎、そして、免疫力低下などの副作用が出ます。 

十全大補湯について 

 十全大補湯という名前は、「すべての身体の衰えに対して働く万全の補薬」や「気血の虚を補い十全(完全)の効がある」という意味になります。名前だけから考えると”万能薬”的な事を想像されるかと思いますが、実際に、消化吸収機能の活性化と全身の栄養状態改善を通じて、生体の防御機能回復および治癒促進を目的に用いられる漢方薬のひとつになります。 

 「気血の虚を補い…」という意味からも分かるように「気」・「血」を補う作用があります。 

気が足りない状態は、「元気がない」状態と解釈できます。身体的あるいは精神的活動性が低下した状態を意味します。気が足りない状態(気虚 と言います)では、体の冷えが起きます。そして、「元気を補う」には、消化吸収機能を活発にする必要があります。 

血が足りない状態は、「貧血」と思われがちですが、漢方医学での「血」は”血液のみならず血液による作用や機能”を意味します。そのため、血液循環不足や免疫機能低下を意味します。 

十全大補湯という名前から分かるように適応範囲が非常に広い漢方薬となります。一例を挙げるだけでも下記のようになります。 

「体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血」(タキザワ漢方廠:十全大補湯の効能・効果) 

効能・効果から見てみると体力が無い方や疲れている方が対象になるような印象を受けます。 

さて、がん治療における十全大補湯の魅力は、①免疫力アップ、②抗がん剤の副作用軽減、③術後の体力アップ があります。 

免疫力アップについて 

「がん細胞やウイルス感染細胞などを攻撃するキラー細胞の増強」や、「免疫細胞を刺激する物質である”サイトカイン”の産生増強」があります。 

抗がん剤の副作用軽減 

食欲不振などの副作用の改善 

術後の体力アップ 

手術によって傷ついた組織の修復作用があります。 

今回は、がん治療における十全大補湯についてみてみましたが、がん治療以外にも疲労感のある方や貧血傾向のある方、低血圧など、さらには、皮膚疾患にも使われる漢方薬となります。 

補中益気湯について 

 補中益気湯は別名を「医王湯」といい、疲労・倦怠感が激しいときに用いられる代表的な漢方薬になります。 

補中益気湯という名前には、中(胃腸の働き)を補い気(元気)を益す(増強する)という意味があります。お腹を元気にすることで疲労回復をするという働きがある漢方薬になります。 

「医王湯」という名前が示すように適応範囲が非常に広い漢方薬となります。一例を挙げるだけでも下記のようになります 

「体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒」(タキザワ漢方廠:補中益気湯の効能・効果) 

食欲不振から感冒(風邪症状)と適応範囲が幅広いことが分かるかと思います。 

がん治療における補中益気湯の魅力は、①免疫力アップ、②がん治療の副作用軽減 があります。 

免疫力アップについて 

漢方医学的な観点と西洋医学の観点からみることができます。 

1.漢方医学的な観点からみてみると「お腹を元気にすることで肺を元気にする。肺は免疫を主る大事な臓になる」ということになります。漢方医学には「五臓」という考えがあります。肝、心、脾、肺、腎とありますが、それぞれに機能があり、依存関係があります。依存関係は、肝→心→脾→肺→腎→肝・・・というように各々が助け合うような形になります。脾には、「食物の消化・吸収」機能などがあり、肺には「呼吸によって新鮮な空気を取り込む」機能や「皮膚の機能の防御、その他防衛力の保持」機能があります。そして、肺は脾の助けを受けることで元気になります。つまり、免疫力アップには、消化機能の改善が必要になります。 

2.西洋医学的な観点からみると「免疫細胞を刺激する物質である”サイトカイン”の産生増強」作用、「がん細胞やウイルス感染細胞など攻撃をするNK(ナチュラル・キラー)細胞活性化」作用、そして、「NK細胞が作られる骨髄の機能低下を抑制する」作用があります。(がんとは関係ないですが・・・)抗体と言われる病原体と戦う物質をつくるには胃腸の働きが欠かせないと言われています。 

がん治療の副作用軽減 

「がんの3大治療法」には、様々な副作用がありますが、共通していることに免疫力低下と食欲不振です。既に述べているように補中益気湯の効能として「免疫力アップ」と「食欲増進」をする作用があるため副作用の軽減に役立ちます。 

 さらに、補中益気湯には”抗うつ作用”としての効能もあるためがん以外でも病気療養中でふさぎ込んだ気持ちの改善にもつながります。 

今回、がん治療における補中益気湯についてみてみましたが、がん治療以外にも色々な効能がある漢方薬になり老若男女問わず使われています。 

十全大補湯と補中益気湯のがん治療における違いについて 

 十全大補湯と補中益気湯は、似ている効能があるため鑑別が難しい場合がありますが、下記のような使い分けが良いかと思います。もちろん、両方を服用するもOKです。(詳しいことは、薬剤師や登録販売者など詳しい方に個別にご確認ください。) 

・手術前の体力UP→補中益気湯 

・手術後の治癒促進→十全大補湯 

・精神的に疲れている→補中益気湯 

・副作用で食欲不振→補中益気湯 

・貧血傾向や皮膚の乾燥がある場合→十全大補湯